白井啓  

 昨年の秋、栃木県のある町にサルの調査に出かけた。採石場とその工場がならぶ道路を川沿いにのぼっていくと、両側に植林地で覆われている山々が続いた。はじめて訪れる町だったが、ある意味で、日本各地の山村で見慣れた風景がそこにもあった。それでも、最後の集落を過ぎると、尾根の上方にはきれいな紅葉の森が見えてきた。さらにさかのぼると、ようやくとサルに装着してある電波発信器の受信音が聞こえてきた。

 サルを発見したのは、植林地帯の中に残る広葉樹林だった。植林しにくかったと思われる急斜面である(写真)。サルたちは、主にカラスザンショウやサルナシの果実を食べていた。まさに実りの秋の恩恵にあずかっていた。

 調査の最終日、林道沿いに煙が立ちこめていた。近づいてみると、炭焼き小屋があり老人がいた。「サルはすぐそこまで来るよ。逃げないんだよ」、「1週間前にはカキに出てたよ」などとお話しして下さった。少し前の私たちの生活にはなくてはならない炭をつくっておられる姿を見て、私たち人間も森に恩恵を受けていることを思い出させられた。フィールドに出ると、忙しい中にも、ときどき改めて認識させられることである。

 植林地は林業によりつくられた森である。林業と野生動物保護は、これまで相反するものであると言われてきた。しかし、林業は木材や紙を使う日本人にとって、なくてはならない産業である。野生動物が住めて、林業も成り立つ森が理想というか目標である。しかし、林業や野生動物の業界は人材や予算が不足している。改善していくためには、より多くの人が関心を持っていただければと思う。
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